以下の1.始めに と 2.上顎洞とは? は、ソケットリフト法と同じ内容になっています。
もし、先にソケットリフト法を御覧になった方は、以下の 3.サイナスリフト法とは? から御覧になって下さい。
1.はじめに
上顎の奥歯にインプラント治療を行う場合、非常に困難になることが多いのです。
その理由として、上顎の奥歯における骨の特殊性があります。
通常、インプラント治療を行う場合、しっかりとした骨が存在することが重要です。
骨の幅が十分にあり、骨の高さも十分に存在することが、インプラント治療が成功するためには、最も重要なことです。
特に上顎の場合、骨の高さが重要になります。
その理由について解説します。
上顎と下顎の骨の硬さを比較すると
圧倒的に下顎の骨は硬いのです。
逆に言えば、上顎の骨は軟らかいのです。
インプラントが安定するためには、硬い骨の方が有利な点が多いのです。
インプラントを骨の中に埋込むことを 例えてお話すると
建物を建築する際、
やわらかい土地にクイを打ち付けるのと
かたい土地にクイを打ち付けるのでは安定が違うと思います。
もちろんかたい土地の方がクイの安定は良いことになります。
話は戻りますが、上顎は、やわらない土地のような状態です。
そのため、できるかぎり長いインプラントを埋込むことにより
安定をはかることが必要になります。
それでは、できるかぎり長いインプラントとは、実際にどの程度の長さなのでしょう?
答えとしては、10ミリ以上の長さのインプラントが安全です。
しかし、現実的には、上顎の奥歯には、さほど骨の高さが存在しません。
上顎の奥歯が欠損している患者様の60〜70%は、10ミリ以下の骨の高さしか存在しません。
骨の高さが、1〜2ミリという方も多くいらしゃいます。
この項のテーマであるサイナスリフト法(上顎洞底挙上術)とは、そのような骨の高さが不足している方の治療方法です。
それでは、なぜ上顎の奥歯では、骨の高さが少ないのでしょうか?
その 理由の一つが『上顎洞』の存在です。
サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)の解説の前に どうしても『上顎洞』について知っておく必要性があります。
以下では、『上顎洞』についての解説から始めたいと思います。
2.上顎洞とは?
上顎の奥歯の上に存在する骨の空洞になっている部分のことです。
この空洞は、頬骨の奥に存在し、鼻腔へとつながっていて、鼻柱骨により左右に分かれています。
この上顎洞の働きは完全にはわかっていません。
多くの場合、歯が存在すると この上顎洞と上顎の骨の距離は一定の幅がありますが、歯周病等で骨が吸収してしまうと 上顎と上顎洞との距離が薄くなってしまいます。
その結果 インプラントを行えないことがあります。
A.歯がある状態で上顎洞までの距離があり、十分な骨の高さがある。
B.歯を失った後でも上顎洞までの距離があり、十分な骨高さがある。
インプラントを行うのに問題はない
C.歯周病等で骨が吸収してしまったために上顎洞までの距離がなくなり、
インプラントを行うのに十分な骨の高さがない。
上顎にインプラントを希望する患者さんの多くは(60%以上)このような
状態である。
このように歯を抜いた場所は年々やせて、場合によっては1〜2mm程度の
幅しかない方もいます。
3.サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)とは?
上顎と上顎洞との距離が狭く、そのままではインプラントは不可能な場合で、ソケットリフト法では、対応できない骨の高さが 4mm以下の場合に行う方法です。
一般的に サイナスリフト法と同時にインプラントの埋入は行わないため、サイナスリフト後に骨の増大と安定が完了するまで4〜6ケ月程度の期間を待たなければなりません。
しかし、上顎の骨の高さが 4mm以下の場合には、この方法以外にインプラントを行うことは不可能です。
上顎と上顎洞との距離が5ミリ以上の場合には、一般的にソケットリフト法が適応されます。
この詳細は、以下を参考にして下さい。
・ソケットリフト法とは?
サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)について、図をもとに解説したいと思います。
図1
骨の高さが 4mm以下の場合、ソケットリフト法でも対応できないため、サイナスリフト法を行います。
サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)は、ソケットリフト法と異なり、下から骨を押し上げるのではなく、骨の高さのない横から移植材を入れ、骨の高さを増大します。
図2
骨移植を行うことにより、上顎洞は点線の位置から押し上げられ インプラントを行うのに十分な高さを得ることができる。
その後4〜6ケ月程度骨が安定するのを待ちます。
図3
サイナスリフトより4〜6ケ月後インプラントを埋入します。
4.骨移植とは?
サイナスリフトを行う場合に 骨の高さを増大するために ご自身の骨を他部位から採取し、上顎洞を押し上げる材料として使用する方法です。
骨移植と聞くと恐い感じがするかもしれませんが、局所麻酔で行うことができますし、最も成功率が高い方法であることがわかっています。
また、狂牛病やヤコブ病の原因とされている他動物の移植材(骨)を使用しないため安全性が高い方法です。
当医院ではこれに人工骨とPRPを複合して使用しています。
PRP法は、現在非常に注目されている骨を増大を促進させる方法です。

治療前(サイナスリフト前):
上顎洞が下がっており、骨の高さは上顎洞まで 3mm程度しか存在しない。
これではインプラントはまったくできない状態です。
黄色い線が上顎洞の位置である。

治療後(サイナスリフト後):
上顎洞は大幅に挙上され、インプラントを行うのに十分な高さが得られた。
5.サイナスリフト法(上顎洞底挙上術)症例
初診
以下のレントゲン写真は、初診の状態です。
右上奥歯に歯がないため、同部にインプラントを行うことにしました。
しかし、上顎洞が存在するため、インプラントを埋入するための場所がありません。
そこで サイナスリフト法を行い インプラントを埋入する計画をたてました。
治療前レントゲンシュミレーション
以下のレントゲン写真は、シュミレーションした状態です。
上顎洞(白矢印)が存在するため インプラントが入る高さ(黄色矢印)が3〜4mm程度しかありません。
そのまま埋入すると インプラントが上顎洞に突抜けてしまいます。
そこでサイナスリフトにて上顎洞を15mm程度挙上して 12mmの長さのインプラントを埋入する計画をたてました。
治療後
12mmの長さのインプラントを行うことができました。
6.サイナスリフトの成功率
サイナスリフト法は、1977年にGeigerらが報告をしたもので、
サイナスリフト(Sinus Lift)の『サイナス』とは、上顎洞のことで
上顎洞を『リフト』(挙げる)という意味です。
大きなグループとしては、ソケットリフト法もこのサイナスリフトの中に含まれます。
しかし、現在 サイナスリフト法 というと 上顎洞の頬側壁を開窓(移植骨を入れる穴を開けること)して骨の移植を行う“ Caldwell-Luc法 ”が幅広く応用されています。
では その方法は本当に安全で効果があるのでしょうか?
サイナスリフトの臨床成功率に関するデータは数多く報告されています。
その中で1996年にアメリカのマサチューセッツ州で行われた『Report of the Sinus Consensus Conference of 1996』という学会での報告を紹介します。
『1995年の時点でインプラント治療が終了してから3年以上経過している患者さんがこの研究の対象となりました。
対象となったインプラントは2997本でした。
そのうち失敗は299本で、成功率は90%であった。』と報告されました。
7.結論
サイナスリフト法は、インプラントを埋入する骨の高さがない場合非常に効果がある方法です。
言いかえれば 骨の高さがない場合は サイナスリフト法を行わないとインプラントはできないということにもなります。
上記の報告では、90%の成功率となっていますが、
失敗の多くは、インプラントと骨が結合(くっつく)するまでの治癒期間に無理な力が加わったり、
術前の診査が不十分であった場合に起こるもので、
十分な診査のもと治療がおこなわれれば もっと成功率は高いものであると考えられます。
しかし、この治療法の最大の欠点は、
外科的侵襲が大きく、治療後ある程度の期間腫れを伴うことが多いことです。また、治療期間も6ケ月から1年と長くかかることも 欠点の一つとなっています。
そうしたことから 従来サイナスリフト法で行っていたケースも外科的侵襲の少ないソケットリフト法を選択するケースも増えてきています。
以下は、ソケットリフト法とサイナスリフト法の比較です。
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利点 |
欠点 |
ソケットリフト
(オステオトーム法) |
・術式が比較的簡単
・感染のリスクが低い
・外科的侵襲が低い
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・骨の高さが5mm以下の場合は適応できない。 |
サイナスリフト
(Caldwell-Luch法)
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