1.はじめに
この項では、
インプラント周囲炎とはなにか? ということと
インプラント周囲炎の原因、
歯周病とインプラントの関係
インプラント周囲炎の症例、
インプラント周囲炎の治療方法
について解説していきます。
かなり長い話には、なりますが、これを全て読めば、インプラント周囲炎についてかなりのことがわかるかと思います。
2.インプラント周囲炎とは?
インプラント周囲炎とは、インプラントが歯周病と同じような症状になることです。
インプラント治療後に歯ブラシが不十分になると 汚れは歯肉とインプラントの境目から内部に侵入していきます。
この汚れは歯周病細菌と同様の細菌です。
(天然歯に見られる歯周病細菌とインプラント周囲に見られる細菌が同じであることはこの後に詳しくお話します)
そして、初期の段階ではインプラント周囲の歯肉が腫れて行きます。
その後 インプラントを支えている歯槽骨を吸収してしまいます。
最終的にはインプラントはダメになり、撤去することになります。
人工物であるインプラントには神経が通っていません。
そのため、初期の段階では多くの場合、自覚症状がありません。
そのため、かなり状態が進行しなければ気付かないのが特徴です。
天然歯の歯周病についてはコチラをクリックして下さい。
3.インプラントは天然歯と同様に歯周病菌に感染するのか?
『インプラントが感染によりダメになった場合、天然歯の歯周病と同じ歯周病細菌は検出されるのか?』
という論文をご紹介したいと思います。
これは 1999年に 『Int. J.Oral Maxillofac. Implants』に掲載されていたものです。
(インプラントの論文誌では有名なものです)
発表者は 『Lekholm,U 他』です。
この人達もインプラントの研究者では有名な方々です。
対象患者さんは 127名(18〜70歳、平均50歳)で、ブラッシングが十分できている患者様です。
対象とするインプラントは、
上顎176本、
下顎262本です。
この状態で10年間メインテナンスを受けながら観察をしました。
何度も書きますが、ブラッシングが良い人達です。
結果は以下のようでした。
インプラントの10年後の成功率は
上顎で92%、
下顎で 93.7%でした。
残存した天然歯およびインプラントからは
歯周病細菌が
『天然歯で 9.7%』、
『インプラントで 10.6%』
検出されました。
つまり、インプラントも天然歯も同様の細菌により感染するということです。
人工の物(インプラント)だから大丈夫ではないということです。
それでは、インプラント周囲炎になった症例を見ていきましょう。
下の写真は初診の状態です。
初診時、左下にあるインプラントが歯周病による感染が起っている状態でした。
インプラント周囲の歯肉は腫れ、膿みもでていました。
これは歯周病の治療を行わないで単に欠損部位にインプラントを行ったために起ったことです。
インプラントは摘出しなければ、ならない状態でした。
4.歯周病の患者さんにインプラントは可能か?
それでは、歯周病の患者さんにインプラントを行うとどうなるのでしょうか?
まず歯周病が存在する状態では インプラントは絶対にできません。
それは 先程の論文でも紹介したように歯周病細菌はインプラントにも感染するのです。
インプラントを行うためには まず歯周病の検査を行うことは必須です。
逆に言えば、歯周病の検査なしでインプラント治療を行う歯科医院は問題があります。
そうした歯科医院ではインプラントは絶対に受けるべきではありません。
それでは また一つの論文をご紹介したいと思います。
軽度歯周病患者におけるインプラントの予後報告です。
これはあくまでも
『軽度』の歯周病ということです。
掲載論文は『Int. J.Oral Maxillofac. Implants, 1999』です。
研究者は『Nevins, M.& Langer, B』
歯科界では 非常に有名な研究者達です。
対象患者さんは 59名(50〜60歳)でこれも先程と同様に
ブラッシングが十分できている患者ばかりを選択しています。
上記の59名の患者さんには
上顎177本、下顎132本
のインプラントが埋入されました。
もちろん徹底した歯周病の治療を行った後、インプラントを埋入しました。
そしてメインテナンスにて経過観察していきました。
観察期間は1〜6年程度です。
結果は以下のようでした。
成功率は、
上顎で98%(174本)、
下顎で97%(128本)でした。
これは徹底した管理を行えば、歯周病患者においてもインプラントを行うことは可能であることを意味しています。
下の写真は先程の患者様のレントゲン写真です。
5.重度歯周病患者さんにインプラントは可能か?
先程は、『軽度』の歯周病患者さんにインプラントを行った場合でした。
それでは『重度』の歯周病患者さんにインプラントを行った場合はどうでしょうか?
同様に論文を紹介します。
論文は『中程度歯周病患者と非常に進行した歯周病患者における インプラントの予後報告』です。
掲載論文は『Periodontol., 2001』です。
研究者はMengel, R. et al : J.です。
対象患者さんは以下のように分類されました。
グループ1:中程度までの歯周病患者5名に対し12本のイン
プラントを埋入しました。
グループ2:非常に進行(重度)した歯周病患者さん
(広汎性侵襲性歯周病と言います)
患者5名に対し36本のインプラントを埋入しま
した。
もちろんグループ1、2ともにインプラント埋入前に徹底した歯周病治療を行っています。
そして全ての患者さんは歯ブラシが十分できています。
結果は以下のようでした。
インプラントの成功率は、
中程度の歯周病患者さんで100%、
非常に進行(重度)した歯周病患者さんで88.8%でした。
この結果からわかることは
常に進行した歯周病(広汎性侵襲性歯周病)でも適切な歯周病治療、メインテナンス(定期検査)が行われれば、インプラントは可能です。
しかし、徹底したブラッシングと管理を行ってもリスクは高かった。
ということです。
6.では歯周病患者さんはインプラントはできないのか?
歯周病患者さんにおけるインプラントの長期予後報告から
インプラント治療前に徹底した歯周病治療が行われ、
その後にメインテナンス(定期検査)が行われていれば、
歯周病患者にインプラントを行うことは可能であることがわかりました。
しかし、長期的には 非歯周病患者と比較してインプラントの成功率の低下が認められました。
このことは、歯周病患者にインプラントを行うことのリスクを示唆しています。
こうしたことから 歯周病患者にインプラントを行う場合、
単に欠損部位にインプラントを行うだけでなく、
歯周病罹患歯の抜歯の適応基準を含め、
将来性を含めた包括的(歯周病の治療、残存歯の予知性、噛み合せ、患者さんのブラッシングの程度など)な治療計画が必要であることがわかります。
また、問題となるのが、重度歯周病の場合です。
将来性もそうですが、歯周病による骨吸収が起こるため、
抜歯後にインプラントを行おうとしても、
骨の増大法(GBR法)を併用しなければならないケースがほとんどであり、治療を受ける患者さんにとっても大変なこととなってきます。
結局、歯周病患者さんにインプラントを行うことは可能ですが、将来性を見据えた治療計画が重要であることと、
その後のブラッシングと定期検査が重要であるということです。
どちらにせよ、リスクが高いことには変わりません。
7.インプラント周囲炎の治療
インプラント周囲炎の治療を説明する前に インプラント周囲炎の分類を解説したいと思います。
それは どんなインプラント周囲炎でも治療できるのではなく、インプラント周囲炎の初期であれば、治療は可能だということです。
そのためには、インプラント周囲炎の分類(インプラント周囲炎の程度)を知ることが必要になります。
現在インプラント周囲炎を分類する方法として『CISTの分類』というものが広く使われています。
私達インプラント専門医はインプラント周囲炎が起った場合、この『CISTの分類』に従い治療を行います。
それでは、この『CISTの分類』について解説する前に歯周病ポケットについて説明したいと思います。
歯周ポケットとは、歯肉とインプラントとの境目にある溝です。
通常この溝の深さは約1〜2ミリ程度です。
しかし、歯ブラシをしないとインプラントと歯肉の境目から汚れが入り込み、炎症が起ります。
下の図は、歯周ポケットの深さを計測している状態になります。
8.CISTの分類(1〜6)と治療方法
1.歯周ポケット3mmが以下の場合で
汚れの付着がなく
出血もない場合:
特に治療する必要性はありません。
2.歯周ポケット3mm以下の場合で
汚れの付着がないが、
出血がある場合:
A : PMTCを行う
『PMTC』とは『 Professional Mechanical Tooth Cleaning』の
略で、歯科医師や歯科衛生士のように特別に訓練を受けた専門家が器
具やペースト(フッ素入り歯面清掃剤)を用いて歯面および歯周ポケ
ット内部に存在している汚れ(細菌)を機械的に除去することを言い
ます。
*詳細は、こちらをクリックして下さい。
3.歯周ポケット4〜5mmの場合
A : PMTC
+
B : 薬液で歯周ポケット内部を洗浄し、
グルコン酸クロルヘキシジンで毎日口洗する。
薬液による口洗を約3週間続けます。
もちろん歯ブラシを徹底して行うことは基本です。
徹底した歯ブラシができないと薬液の効果はありません。
*グルコン酸クロルヘキシジンについては、こちらをクリックして下さい。
4.歯周ポケット5〜6mm程度で
出血がある場合
ただし、骨吸収はない
まず、レントゲンによる検査が必要になります。
レントゲン検査の結果、骨の吸収がない場合には以下の処置を行います。
A : PMTC
+
B : 薬液で歯周ポケット内部を洗浄し、
グルコン酸クロルヘキシジンで毎日口洗する。
上記の処置を行い、3週間程度経過したら再度検査を行い、問題がないか
確認する。問題があれば、次の5の治療に以降する可能性があります。
参考文献:
掲載論文:Clin Oral Implants Res(1992年)
研究者 :Mombelli
5.歯周ポケット5mm以上で
出血がある場合
さらに、骨吸収がある場合(2mm以下)
まず、レントゲンによる検査が必要になります。
レントゲン検査の結果、骨の吸収が2mm以下であれば、以下の処置を行い
ます。
骨の吸収が起っているということは大きな問題です。
早急に対応しないと問題が広がり、インプラントを摘出する可能性があり
ます。
A : PMTC
+
B : 薬液で歯周ポケット内部を洗浄し、
グルコン酸クロルヘキシジンで毎日口洗する。
+
C : 全身的あるいは歯周ポケット内部への抗生剤の使用
抗生剤を服用します。
また同時に歯周病ポケット内部にも抗生剤の軟膏を入れます。
約10日間続けます。
抗生剤の種類については論文学的には
オルニダゾール(1000mg×1)もしくはメトロニタゾール(250mg
×3)を10日間、
あるいはアモキシシリン(375mg×3)と
メトロニタゾール(250mg×3)の組み合わせが
効果があるとされています。
* しかし、日本では一般的に処方する薬ではないので、使用する薬は医
院により違うことがあります。
参考文献:
掲載論文:Clin Oral Implants Res(2001年)
研究者 :Mombelli
上記のようなことを行い、改善しない場合には以下の治療を行う必要性があります。
6.歯周ポケット5mm以上で
出血がある場合
さらに、骨吸収がある場合(2mm以上)
レントゲン検査の結果、骨の吸収が2mm以上であれば、以下の処置を行い
ます。
2mm以上の骨吸収は大きな問題です。
早急の対応が必要です。
場合により摘出する可能性があります。
A : PMTC
+
B : 薬液で歯周ポケット内部を洗浄し、
グルコン酸クロルヘキシジンで毎日口洗する。
+
C : 全身的あるいは歯周ポケット内部への抗生剤の使用
+
D : 外科処置を行う
骨の吸収が著しい場合には外科処置を行う必要性があります。
外科処置とは麻酔をし、歯肉を切開し、内部の汚れを取り除きます。
この時大切なのはインプラント本体をチタン以外の金属で触れないと
いうことです。
インプラント自体は純チタンでできています。
これは純チタンが骨と結合(くっつく)唯一の材質なのです。
そのため、純チタン以外の金属がインプラント本体に触れるとインプ
ラント表面にその金属の一部が付着する可能性があります。
もし、インプラント表面にチタン以外の金属が触れると後に骨と結合
(くっつく)しない可能性があります。
十分注意しなければ、ならないことです。
9.インプラント周囲炎の治療後には
上記のようなCISTの分類(1〜6)によりインプラント周囲炎の治療を行った後には必ず、再度、歯周ポケットの検査やレントゲン検査を行う必要性があります。
再検査の結果、問題がなければ、その後メインテナンス(SPT)を行うことになります。
ここで問題なのはインプラント周囲の骨の吸収が止まり、回復するかということですが、
感染の状態によりだいぶ違います。
天然歯の歯周病では原因細菌を除去すると歯周囲の組織は回復します。
状態によっては骨が回復することも可能です。
これは天然歯だからです。
感染原因の汚れが取れれば、生体の力で自然に回復します。
しかし、インプラントの場合、もともとは異物ですから、感染が起ると異物反応を起こし、インプラントを排除する作用が起ります。
先程のCISTの分類5や6の状態になると感染がどこまで取り除けたかにより治るかどうかが変わります。
インプラント表面に感染した汚れが取れないと骨の吸収は治まらず、さらに進行します。
そのため、一度インプラント周囲炎になった場合には『CISTの分類』による治療が終わった後も定期的にレントゲン撮影を行う等、経過を観察することが必要です。
10.もしインプラント周囲炎が治らなかったら! ダメになったら!
インプラント周囲炎を『CISTの分類』により治療を行っても、治らなかったらどうなるのでしょう?
基本的にはインプラントを摘出する必要性があります。
骨の吸収が止まらない場合、そのまま放置しておいても良いことはありません。
そればかりか、インプラント周囲炎を放置すると骨吸収が進むため、後の治療が困難になります。
つまり、最終的にインプラントを摘出した後の治療です。
もし、インプラントを摘出した後に再度インプラントを行うのであれば、骨があまり吸収していない段階で行うことが必要です。
骨が吸収してしまった後でインプラントを摘出すると新たにインプラントを行うことが困難になります。
骨の増大法(GBR法)を行うことが必要になります。
再度インプラントを行うことが難しくなるため、腫れや治療期間が長くなる等の治療による大変さあります。
もし、インプラント周囲炎になり、治る可能性が低い場合には早急に摘出することが大切です。
早い段階であれば、インプラントを摘出し、一定期間待ちます。
骨の吸収がさほどなければ、再度インプラントを行うことは難しいものではありません。
インプラント周囲炎になったら早期の治療と的確な判断が必要になります。
下の写真はインプラント周囲炎になってしまった症例です。(写真2、3)
右下のインプラント(手前のインプラントの方)がインプラント周囲炎になっています。
赤線が本来の骨の位置で、緑の線が吸収してしまった現在の骨の位置です。
細菌感染により、骨がかなり吸収してしまった状態が分かるかと思います。
CISTの分類6です。
こうなるとインプラントを摘出しなければなりません。
インプラント治療後も定期的に管理を行うことが大切です。
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